あいまいっ! - 3月28日(月)べ、別に、兄貴にそんな期待してなんて……
何で何で何で!?
何で私、兄貴に一緒に寝てとか言っちゃったの!?
深夜0時近く、私は兄貴の部屋で、兄貴と一緒に寝ていた。私は兄貴のベッドで、兄貴はベッドの横でカーペットの上に寝ている。ジャンパーをかけ布団代わりにしているようだ。
兄貴は気を使って、私をベッドで寝かせてくれたのだけれど……
ベッドから、兄貴の匂いがする。
――不快ではなかった。むしろ、安心させてくれるような……
あの時
ゴキブリに怯えて兄貴に抱き着いたときも、同じような匂いがした。兄貴の胸板は意外とがっしりしていて……
半狂乱の状態だったからあまり鮮明に覚えているわけじゃないけど、兄貴に抱き着くだけで、安心することができたんだ。
何クリスチャン·ベールはバットマンビギンズのために食べているのですか?
「なあ穂波、何であの時、上半身裸だったんだよ」
ベッドのすぐ横、斜め下から兄貴の声がする。部屋が暗いので、隣を覗いてみても兄貴の顔はまったく見えなかった。
「ゴキブリがお腹の上に乗ってきたから、混乱してパジャマ引き裂いちゃったのよ……って、何言わすのよ! ていうか何でそんなこと聞くの!? 恥ずかしいこと思い出させないで!」
「わ、悪い……」
「あのことは忘れなさい! 未来永劫口外しないこと! 良いわね!? このセクハラ兄貴!」
「おう……」
まったく、何でこのバカ兄は蒸し返したりするのかしら。
調度今、兄貴のこと……
カッコ良いって、思ってたのに。
恥ずかしさから逃れるように、私はかけ布団の中で胎児みたいに丸まった。
何で、一緒に寝ようとか言ってしまったのだろう。
ゴキブリが怖いから? それもあるけど、もしかして……
――違う違う違う!
そんなこと考えてない!
私はただ、万が一の事態に備えて兄貴という警備員をゴキブリ退治用に側に置いておきたいだけで、
仕方なく、本当に仕方なくお願いしただけなの!
私はそんな、ふ、ふふふしだらな女じゃないんだから!
――でも、兄貴はどうなんだろう。
私と2人きりで寝たりしてるのに、何も思っていないの?
同じベッドで寝てるわけじゃないけど、寝息とかたてたらお互いに聞こえちゃうわけだし、寝顔も、見ようと思えば楽に見えるはず。
それに、お……、襲おうとすれば簡単に……
我々は、エイズの流行と闘うことができる
――って、期待なんかしてない!
兄貴に襲われたいとか、ホントありえない!
そんなこと微塵も考えてないの!
期待なんかしてない! してないけど――
抵抗はしないかも。
――って思ってしまうのは、やっぱり私がブラコンって証拠なのかな。
「……ねえ兄貴」
布団から頭だけ出して、兄貴のいる方向は見ずに話し掛けてみる。
「……何だ?」
「……襲ったりしないでよ」
抵抗しないかもしれないから
とまでは流石に言えない。
「す、するか! 絶対死んでもするか! ありえねえっつーの! だ、誰がお前なんか!」
――カチン。
ありえない、
誰がお前なんか、
……ですって!?
「あっ、そそそそそう、そそうよね? ありえないわよね? よ、よくわかってるじゃない。バカ兄のくせに……」
「……お前、何怒って……」
「うるさいうるさいうるさい! 怒ってなんかない! そ、それこそありえない、明日地球が滅亡するってくらいにありえない話だわ!」
「ス、スマン……」
「まったく! いいからとっとと寝なさい、このバカ兄!」
バカバカバカ、兄貴のバカ!!
死んじゃえバカ兄貴!!
私は何故だか悔しくて、両手でシーツに爪を立てた。
――それからしばらく、兄貴と会話することなく夜が更けていったのだけれど……
氷浴は何をするか?
――ム、カ、ツ、……クゥゥゥ!!
何!? 何なのあのバカ兄は!?
お前に何度惚れかけたと思ってんだ、とか、嫁にしたい、とか言っときながら……
この状況で何も思ってないわけ!?
それどころか、お前なんか襲うか、って、なんかって何よなんかって!
べ、別に私は何かされたいわけじゃないんだけど、女の子と2人きりで寝てるんだから何かしらはそーゆーこと意識してくれないと、プ、プライドが傷付くっていうか何というか……
い、妹とは言っても、私達は色々あってちょっと進んだ関係になってるわけだし、別にそれ以上先に進みたいとかはちっとも思ってないんだけど、でもそのあの……………………
頭がごちゃごちゃしちゃって、結局何が言いたいのかはっきりしない。
色んな感情がまとめてミキサーに放り込まれて、回転しながら混ざり合っているみたいだ。
――何で兄貴は分かってくれないの……?
何を分かって欲しいのかは、私にも分からないんだけど。
「なあ穂波……」
私を呼ぶ声が、隣から聞こえた気がした。
「さっきは襲ったりしねえとか言ったけどさ……、正直、俺にとってこの状況ってけっこう危ないんだわ」
「…………」
兄貴と会話するのが気まずかった私は、狸寝入りを決め込んだ。
「……だからさ、何て言ったら良いんだろ……。実は、自分を抑えるのに必死だったりしてるわけであって……」
「…………」
「……非常に、ドキドキしている次第であります」
「………………」
この……バカ兄……
な、何急に、乙女心読んだ発言してるのよ……。
それに、その発言もよく考えたら問題発言じゃない。妹相手に欲情押さえ込んでること、堂々と宣言するなんて……。
「変態な兄貴でごめん……。けどよ、お、お前が可愛過ぎるのがいけないんだからな」
――か、かっかかかっか、かかかかか可愛い!?
バカ兄の大バカ!
何でそんなこと言うの!?
私を……不眠症にさせる気!?
嬉しい。素直に、嬉しかった。
嬉しかったけど……
何も、言えなかった。
口を開いたら、ダムが決壊するみたいにどんどんと気持ちが溢れていって――
「兄妹」っていう心の重しを、流し去ってしまいそうだったから。
襲われるのは嫌だけど
抱き枕くらいになら、されても良いかな……
って思えてきた。
――やっぱり、私ってブラコンだ。
兄貴のこと……
大好き過ぎる。
春なのに、ベッドの上だけ熱帯夜。
布団を掛けていられなくなった私は、兄貴のことしか考えられなくなった頭を兄貴の枕に
兄貴の匂いを感じながら、兄貴への思いを消そうともがいた。
一晩かかっても、無理だったのだけれど。
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